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岡山地方裁判所 平成4年(ワ)721号 判決

反訴原告

株式会社小板商店

反訴被告

コーワキユーソー株式会社

ほか一名

主文

反訴被告らは、反訴原告に対し、各自金二五九万五二二二円及び内金二三九万五二二二円に対する平成五年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

反訴原告のその余の反訴請求を棄却する。

訴訟費用はこれを九分し、その四を反訴被告らの負担とし、その余を反訴原告の負担とする。

事実

第一申立

一  反訴原告

反訴被告らは、反訴原告に対し、各自金五八六万二七七二円及び内金五四六万二七七二円に対する平成五年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は反訴被告らの負担とする。

仮執行宣言

二  反訴被告ら

反訴原告の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

平成四年三月九日午前六時五分頃、岡山市江崎四四六番地の五先県道において、藤本英治運転の大型貨物自動車と反訴被告青梨利夫運転の普通貨物自動車が衝突し、同車が県道脇の反訴原告(以下「原告」という)のガソリンスタンド店内に飛び込み、給油計量機、柱、看板等に衝突した。

2  責任

本件事故について、反訴被告青梨利夫は、自動車運転中前方注視を欠いた過失があり、民法七〇九条の不法行為責任を負い、反訴被告コーワキユーソー株式会社(以下「被告会社」という)は、反訴被告青梨利夫を雇用し、自動車運転の業務に従事させていたが、右事故は業務中に発生したものであるから、同法七一五条の使用者責任を負う。

3  権利侵害

本件事故により、原告所有の給油計量機、柱が破損し、キヤノピー(スタンドの天井部分)に歪みが生ずるなどし、また、原告がエツソ石油株式会社から貸与を受けていた看板が破損した。

4  損害額

〈1〉 給油計量機 二〇六万円

本件事故当日、被告らは、破損した原告の給油計量機の賠償のため、株式会社富永製作所に対し、右と同等の給油計量機を原告のガソリンスタンドに設置するよう発注し、同会社との間に、原告のためにする給油計量機の売買及び設置工事請負契約を締結し、原告は、右契約の利益を享受する旨の意思表示をした。ところが、被告らは、右給油計量機を株式会社富永製作所が原告ガソリンスタンドに搬入し設置したにもかかわらず、代金二一九万三九〇〇円及び応急処置分二二万六一五二円の合計二四二万〇〇五二円の支払を拒んだため、原告は、株式会社富永製作所と交渉し、右金額を二〇六万円に値引きさせ、これを被告らのために立て替えて支払つた。

〈2〉 柱 九六万〇九九〇円

〈3〉 看板 七一万〇七〇〇円

〈4〉 キヤノピー等 一四三万一〇八二円

5  慰謝料 三〇万円

被告らは、原告に対し、誠意の一片も示さず、本件事故当日、被告らと株式会社富永製作所との間に給油計量機の売買及び設置工事請負契約が成立したのに、その履行を拒否して、原告に著しい精神的苦痛を与えたので、これを金銭に換算すると、三〇万円を下らない。

6  弁護士費用 四〇万円

7  結論

よつて、原告は、被告らに対し、各自、損害合計金五八六万二七七二円及び弁護士費用を除く内金五四六万二七七二円に対する反訴請求の趣旨原因訂正(拡張)申立書送達の翌日である平成五年七月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2はいずれも認める。

請求原因3のうち、本件事故により、原告所有の給油計量機、柱が破損し、また、原告がエツソ石油株式会社から貸与を受けていた看板が破損したことは認めるが、キヤノピー(スタンドの天井部分)に歪みが生じたことは知らない。

請求原因4〈1〉は争う。被告らと株式会社富永製作所は原告主張のような契約を締結したことはない。給油計量機破損による損害額は、減価償却後の七九万五九六七円の限度に止まる。

請求原因4〈2〉は認める。

請求原因4〈3〉は争う。看板破損による損害額は、減価償却後の三一万〇九三一円が相当である。

請求原因4〈4〉は争う。キヤノピーは修理されていない。

請求原因5、6は争う。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

請求原因1は当事者間に争いがない。

二  責任

請求原因2は当事者間に争いがない。

三  権利侵害

請求原因3のうち、本件事故により、原告所有の給油計量機、柱が破損し、また、原告がエツソ石油株式会社から貸与を受けていた看板が破損したことは、当事者間に争いがない。

乙第七号証の一ないし三、証人沼田光久及び同小板康太の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故により、原告のガソリンスタンドのキヤノピー(天井部分)に歪みが生じたことが認められる。

四  損害額

1  給油計量機 七九万五九六七円

原告は、請求原因4〈1〉のとおり、本件事故当日、被告らと株式会社富永製作所との間に、原告のためにする給油計量機の売買及び設置工事請負契約が締結された旨主張し、証人竹内正行、同小板康太及び同岡知康の各証言並びに乙第一〇号証中には、これに沿い又は沿うかのような供述ないし記載部分があるが、右は証人久保俊夫の証言及び甲第四号証に照らし直ちに採用の限りではない。

甲第四号証、乙第一〇号証、証人竹内正行、同小板康太、同岡知康及び同久保俊夫の証言によれば、原告の専務である小板康太は、本件事故後まもなく現場に駆け付けてきた被告会社の岡山営業所長である久保俊夫に対し、すぐ営業ができるようにしてほしい旨要求し、これに対して、同人が、現場に同様来あわせていた給油計量機メーカーの株式会社富永製作所の従業員らに対し、早く直して営業ができるようにしてあげてほしいなどと述べたことは認められるけれども、これをもつて、前記原告の主張を首肯させるに足りる事情とは認め難く、他にこれを首肯させるような事実を認めることはできない。

そこで、破損した給油計量機の損害額を求めるに、甲第一号証、乙第四号証の一ないし九並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故により破損した給油計量機は全損状態であり、同型の機種は既に製造中止となつていたため、ほぼ同等機種を再調達する場合、一三〇万二四三五円を要するところ、破損機の耐用年数は八年、設置後経過年数は五年、最終残価率は一〇パーセント、定額法による償却率は五六・二五パーセントとなること、応急処置費用として二二万六一五二円を要したことが認められるので、全損による損害額は、一三〇万二四三五円に償却率を控除した率〇・四三七五を乗じた五六万九八一五円に応急処置費用二二万六一五二円を加算した七九万五九六七円と算定するのが相当である。

2  柱 九六万〇九九〇円

請求原因4〈2〉は当事者間に争いがない。

3  看板 三一万〇九三一円

甲第一号証、乙第四号証の一ないし九、第一一号証の一、二、証人小板康太の証言並びに弁論の全趣旨によれば、破損した看板は、原告がエツソ石油株式会社から貸与をうけたものであるが、取引終了時に返還し、返還できなければ代価を支払うべき旨の取り決めが為されており、原告は、新たな看板を取り付けるのに七一万〇七〇〇円を要したこと、破損した看板の耐用年数は八年、設置後経過年数は五年、最終残価率は一〇パーセント、定額法による償却率は五六・二五パーセントとなることが認められるので、その損害額は、七一万〇七〇〇円に償却率を控除した率〇・四三七五を乗じた三一万〇九三一円と算定するのが相当である。

ところで、証人小板康太の証言中には、右看板は、エツソ石油株式会社からの貸与の条件として、取引終了時に元通りのものを返還するか、それに見合う代金を支払うべきものであるから、減価償却して損害額を算定すべき性質のものではないとの供述部分があるが、右のような条件の存在をもつて、直ちに看板破損による損害額を破損時の価額相当額以上に見積もるべき根拠とはなし得ない。

4  キヤノピー等 三二万七三三四円

乙第七号証の一ないし三、証人沼田光久及び同小板康太の各証言によれば、原告の専務である小板康太は、本件事故後しばらくして、第三者からの指摘でキヤノピーに歪みが生じているのではないかとの疑いを持ち、設置業者の従業員に見せたところ、僅かに歪みが生じていることが判明し、ほかに、給油計量機設置台(アイランド)及びキヤノピー接触壁に亀裂が入つているなど明らかな損傷についても修理の必要があつたこと、その補修費を見積もらせたところ、アイランドについて七万五〇〇〇円、壁の亀裂について二四万二八〇〇円、キヤノピーの当面の処置について一〇七万一六〇〇円、合計一三八万九四〇〇円(これに消費税三パーセント加算)となつたこと、キヤノピーの歪みについては、補修しなければ耐用度等に何らかの支障があるかどうかについては不明であり、右見積額はとりあえず修理してみるのに要する額であること、本件事故後、原告はキヤノピーの補修をしないまま営業をしていること、以上のとおり認められる。

右認定事実によれば、見積もり補修費のうちアイランド分七万五〇〇〇円と壁の亀裂分二四万二八〇〇円の合計三一万七八〇〇円及び消費税九五三四円の合計三二万七三三四円が本件事故による損害と認めるのが相当であるが、キヤノピーの歪みについては、一見して明らかではなく、補修しないことによる支障の存否すら不明であり、現に補修していないことなどからすると、その見積もり補償額が損害額として評価し得るか未だ疑問がある。

5  合計 二三九万五二二二円

五  慰謝料

原告は、請求原因5のとおり主張するが、前記四1のとおり、本件事故当日、被告らと株式会社富永製作所との間に、原告のためにする給油計量機の売買及び設置工事請負契約が締結されたとは認められないから、右主張は前提を欠き、理由がなく、他に本件事故について慰謝料を認めるべき事情を認めるに足りる証拠はない。

六  弁護士費用 二〇万円

本訴の内容、審理の経過、認容額等をあわせ考慮すると、被告らにおいて負担すべき弁護士費用としては二〇万円と認めるのが相当である。

七  結論

以上によれば、原告の請求は、被告らに対し、連帯して損害額合計二三九万五二二二円に弁護士費用二〇万円を加算した二五九万五二二二円及び弁護士費用を除く内金二三九万五二二二円に対する反訴請求の趣旨原因訂正(拡張)申立書送達の翌日である平成五年七月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行宣言についてはその必要を認め難いから付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢延正平)

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